「RPAを入れれば事務作業が減るらしい」と聞いて調べ始めたものの、あなたは今こんな疑問を抱いてはいませんか?

  • うちのどの業務がRPAで減らせるのか、線引きがわからない
  • 費用がいくらかかって、どれだけ時間が減るのか見当がつかない
  • IT担当のいない会社で、入れたあと運用できるのか不安

RPAとは「人がパソコンで行っている決まった操作を覚えさせて、代わりに動かすソフト」のこと。 言葉は知っていても、自社のどの業務に当てはめられるのかまでは判断しづらいところではないでしょうか。

この状態のまま「とりあえず入れてみよう」と進めると、高いライセンス費を払ったのに動くロボットは1本だけ、という結末になりがちです。 しかもその1本は、作った担当者しか中身がわかりません。 過去にツールを入れて使われずに終わった経験があるなら、その警戒は正しいものです。

結論を言うと、RPAを契約する前に、対象になりそうな業務を1つ選び、次の3つの条件を満たすかどうかを確かめるのがベストです

  1. 手順が毎回同じ
  2. 月5時間以上使っている
  3. パソコンの画面だけで完結する

条件を満たすなら、無料で使える範囲で小さく作って動かしてみましょう。 満たさないなら、RPA以外の手段のほうが安く早く済みます。

なぜなら、RPAは人のパソコン操作をそのまま代わりに動かす道具だからです。 判断が必要な業務や紙が絡む業務の時間は、RPAでは減りません。 この線引きを知らないまま始めると、そもそも対象にならない業務に時間と費用を使うことになります。

この記事では、RPAを入れるべきかを自分で判断し、入れるなら損をしない範囲で小さく始めるための手順を解説します。 IT専任の担当者が社内にいない会社でも、読み終える頃には「RPAを試す」「別の手段で足りる」「いまは業務の整理が先」のどれかを、その日のうちに決められる状態になっています。

RPAで効率化できるのはパソコン上の決まった手順の作業だけ

はじめにお伝えしておくと、RPAで減らせるのは人がパソコンの画面上で毎回同じ手順を繰り返している作業だけです。 「事務作業が丸ごとなくなる」と期待して検討を始めると、ほぼ確実に期待外れに終わります。 RPAは考える仕事を代わりにやってくれる道具ではなく、決まった操作を代わりに動かす道具だからです。 まずは、RPAが何を肩代わりしてくれて、何は肩代わりしてくれないのかをはっきりさせておきましょう。 ここを外さなければ、このあとの判断はほとんど間違えません。

RPAが肩代わりするのは人のパソコン操作そのもの

RPAは、人がマウスとキーボードで行っている操作を覚えさせて、同じ順番で再現するソフトです。 システム同士をつなぐ専用の仕組みを作るのではなく、画面を見て、クリックして、入力するという人間と同じやり方で動きます。 だからこそ、いま使っている業務システムを改修しなくても導入でき、外部との連携機能を持たない古いソフトウェアが相手でも使える、という点が最大の利点です。

具体的には、次のような操作を任せられます。

  • 取引先のサイトにログインして注文データのファイルをダウンロードする
  • ダウンロードしたデータを自社のシステムに1件ずつ入力する
  • 複数のExcelを開いて決まった形に転記・集計する
  • 決まった宛先に決まった文面のメールを添付ファイル付きで送る
  • 2つの表を突き合わせて金額が一致しない行だけ抜き出す

いずれも「頭は使わないが手は動かす」作業です。 あなたの会社の事務作業に、この種のものが多いほどRPAの効果は出ます。

判断が必要な業務と紙が絡む業務は減らせない

一方で、次のような業務はRPAを入れても時間は減りません。

  • 内容を読んで例外かどうかを判断する業務
  • 相手によって書き方を変える業務
  • 紙の書類を見ながら入力する業務
  • 手順が担当者ごとに違う業務

RPAは「どういうときに、どう操作するか」を人が事前に決めておかないと動けません。 そのため、クレーム対応や値引きの可否判断のように、その場で決める必要がある業務は対象外になります。 提案書の作成や個別のメール返信も、相手ごとに中身が変わるため任せられません。

ただし、こうした判断や文章づくりが絡む業務は、RPAではなくAIの得意分野です。 無料のAIでもメールの下書きや資料のたたき台は任せられるため、RPAと切り分けて考えてみてください。 使い方は無料でできるAIを使った業務効率化の方法の解説記事で紹介しています。

無料でできるAIを使った5つの業務効率化の方法と気を付ける3つのルール

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無料でAIを使って業務効率化したい方へ、AIツールの選び方や業務別の使い方、会社で使う前に注意すべきルール、有料プランへの切り替え基準まで解説します。

特に注意したいのが、紙が絡む業務です。 紙の請求書や申込書を見ながらシステムに入力している作業は、RPAを入れても人が読み取って打ち込む部分がそのまま残ります。 RPAに読み取り機能を足す方法もありますが、読み取り結果を確認する作業が新たに発生するため、期待したほどは減りません。 一方で、会計ソフトの領収書取り込みのように、その業務専用に作り込まれた読み取り機能は精度が高く、確認の手間も少なく済みます。 紙を読み取らせるなら、汎用のRPAより、いま使っているソフトに付いている機能を先に探してみてください。 この場合はRPAより先に、紙をやめてデータで受け取れないかを取引先に相談したほうが効果は大きくなります。

いまの事務作業のうち、どれくらいが「頭を使わないパソコン操作」に当てはまるか。 この見立てを持ってから先に進みましょう。

RPAで効率化しやすい業務の3つの条件

RPAが何を肩代わりできるかは見えてきたはずです。 ただ、当てはまりそうな業務がいくつかあっても、そのすべてが対象になるわけではありません。 実際に手を付ける業務は、次の3つの条件をすべて満たすものから選びましょう。 1つでも欠けた業務を選ぶと、作る手間が削減できる時間を上回るか、作ったあともエラーで止まり続けて手作業に戻ることになります。

条件1:手順が毎回同じで例外がほとんどない

1つ目は、いつやっても手順が変わらないことです。 RPAは決められた通りにしか動けないため、想定していないパターンが来ると止まるか、間違ったまま処理を進めてしまいます。

例外が全体の1割を超える業務は、最初の対象から外しましょう。 例外のたびに人が確認するのであれば確認の手間が残り、削減できる時間はほとんど生まれないからです。

判断に迷ったときの目安は「入社したばかりの人に手順書だけ渡して、質問なしで最後までできるか」です。 「この場合はどうするんですか?」という質問が出るなら、その業務にはまだ人の判断が残っています。

条件2:月に5時間以上を使っている

2つ目は、その業務にまとまった時間を使っていることです。 例えば1回15分の作業でも、毎営業日やっていれば月5時間になります。 逆に、月1回30分の作業は月0.5時間です。 後者をRPA化しても、作る手間のほうが確実に大きくなります。

目安として、月5時間以上使っている業務を最初の対象にしましょう。 計算は「1回あたりの時間 × 月の回数」だけで構いません。 感覚で「あれが大変そうだ」と選ぶと、実際には時間を使っていない業務を選んでしまうことがよくあります。 必ず数字にしてから比べてみてください。

条件3:パソコンの画面だけで完結する

3つ目は、入口から出口までパソコンの中で終わることです。 途中で紙の書類を見る、電話で確認する、他の担当者に聞く、といった工程が挟まると、そこでロボットは止まります。

もし途中に人の作業が挟まる場合は、その前後で業務を切り分けられないか考えてみましょう。 「データをダウンロードして整形するところまではロボット、内容の確認と送信は人」という形なら成立します。 全部を自動化しようとして諦めるより、確実に減る部分だけを切り出したほうが早く効果が出ます。

3つの条件で対象業務を選ぶ“1枚の表”の作り方

条件がわかったら、自社の業務を表に並べて対象を1つに絞ります。 使うのはExcelのシート1枚、あるいは紙1枚で十分です。 次の手順で進めてみてください。

  1. 事務作業を思いつく限り書き出す
  2. それぞれに「1回あたりの時間」と「月の回数」を書く
  3. 掛け算して「月の時間」を出し、多い順に並べ替える
  4. 上から順に3つの条件を○×で付ける
  5. 3つとも○が付いたもののうち、月の時間が最も多い業務を1つ選ぶ

1つ目の書き出しは、担当者に聞くのがいちばん早く済みます。 書き上がると、次のような表になります。

業務名 1回の時間 月の回数 月の時間 条件1 手順が同じ 条件2 月5時間以上 条件3 画面で完結 判定
通販サイトの受注データを販売管理に入力 15分 20回 5.0時間 対象
各支店の日報Excelを1つに集計 30分 20回 10.0時間 対象
銀行サイトから入金明細を取得して消込 40分 20回 13.3時間 × 認証あり 前半のみ
紙の請求書を見て会計ソフトに入力 90分 4回 6.0時間 × 紙 対象外
見積書の作成 20分 30回 10.0時間 × 内容が毎回違う 対象外
月次の役員報告資料の作成 120分 1回 2.0時間 × × 対象外

この例では、月10時間を使っている「各支店の日報Excelを1つに集計」が最有力です。 「見積書の作成」も月10時間かかっていますが、内容が毎回違うためRPAには向きません。 時間が長い業務が対象になるとは限らない、という点がこの表の要点です。

なお、この書き出し作業自体にも価値があります。 担当者に手順を聞いていく過程で、二重に入力している台帳や、誰も見ていない資料が見つかることがよくあるからです。

RPAを入れる前に確かめたい3つの代わりの手段

対象業務が決まったら、次はいよいよ製品選びだと思うかもしれません。 ただ、見積もりを取る前にもう1つ確かめておきたいことがあります。 同じ結果が、もっと簡単で安い手段で得られないかという点です。 RPAは画面の操作を真似る都合上、これから紹介する手段の中で最も手間がかかり、最も壊れやすい方法だからです。

代わりの手段1:いま使っているソフトの取り込み機能で済ませる

まず確認したいのが、いま使っている会計ソフト・販売管理ソフト・給与ソフトなどの取り込み機能です。 多くの業務ソフトには、データを書き出す機能と取り込む機能が用意されています。 例えばCSVでの受け渡しがその代表で、「システムAの画面を見ながら、システムBに手入力で転記している」という作業は、AからCSVで書き出してBに取り込むだけで終わることが少なくありません。

また最近の会計ソフトなら、領収書やレシートの画像を読み取って仕訳にする機能を持つものもあります。 手入力そのものをなくせる道が、契約済みのソフトの中にすでにあるかもしれません。

確認方法は簡単です。 各ソフトのマニュアルかサポート窓口に、次の2つを聞いてみましょう。

  1. このデータを書き出せるか
  2. こちらのソフトに、その形式で取り込めるか

質問に「はい」と返ってくれば、RPAは不要です。 1件ずつ画面を操作するより圧倒的に速く、画面の変更で止まることもありません。

代わりの手段2:Excelのマクロや無料のツールで試す

次に、無料で使える範囲で足りないかを確かめます。 Excelの中だけで完結する転記や集計であれば、マクロで十分な場合があります。 Googleスプレッドシートを使っているなら、同じことをGoogle Apps Scriptという仕組みで実現できます。

ここでRPAとマクロの違いを整理しておきましょう。 マクロはExcelなど特定のソフトの中で動く仕組みで、RPAはソフトをまたいでパソコン全体の操作を動かす仕組みです。 複数のExcelファイルをまとめる、決まった形に整形するといった作業はマクロの領分で、RPAを持ち出す必要はありません。 「ブラウザで開いたサイトから取ってきて、業務システムに入れる」のように複数のソフトをまたぐときに、はじめてRPAが必要になります。

また、Windowsには「Power Automate Desktop」というパソコン操作の自動化ツールが標準で用意されており、追加費用なしで試せる範囲があります。 Macを使っている場合も、標準の「ショートカット」や「Automator」で決まった操作の自動化を試せます。

有料のRPAを契約する前にこの範囲で作ってみると、そもそも自動化できる業務なのかを費用ゼロで確かめられます。 無人での実行など一部の機能は別途契約が必要で、使える範囲は変更されることもあります。 会社として本格的に使う前に、最新のライセンス条件は必ず確認してください。

なお、自分たちで作る場合にどこまで手を出してよいかは、業務効率化ツールを自作してよいかを見極める3つの条件の解説記事で紹介しています。

業務効率化ツールを自作してよいかを見極める3つの条件と3つの方法

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業務効率化ツールは自作できます。ただ作る前に確かめたい3つの条件と、自作する3つの方法、作った人が辞めても止まらないための4つの決めごとを解説します。

代わりの手段3:業務そのものをやめるか回数を減らす

最も効果が大きく、費用もかからないのが、その業務をやめることです。 先ほどの表を作る過程で書き出した業務に、次の問いを当ててみましょう。

  • 毎日出している集計表は、週1回では困るのか
  • その報告書は、誰が何の判断に使っているのか
  • 二重に入力している台帳は、どちらか一方に寄せられないか
  • 過去の経緯で続いているだけの作業ではないか

自動化は、必要な業務を速くする手段です。 不要な業務を自動化すると、その業務は誰にも疑われないまま永久に残ります。 回数を半分にするだけでも、削減効果はRPAに引けを取りません。

手段 費用 向いている場面 注意点
ソフトの取り込み機能 追加費用なし システム間のデータ転記 両方のソフトが対応している必要がある
Excelのマクロ 追加費用なし Excelの中で完結する集計・整形 作れる人が社内にいるか
無料の自動化ツール 追加費用なし 複数ソフトをまたぐ操作を試す 機能に制限があり条件の確認が必要
業務をやめる・減らす 追加費用なし 惰性で続いている定例作業 やめる判断ができるのは経営者だけ
有料のRPA 年額の費用が発生 上記で解決できず量も多い業務 作成・保守の手間も含めて判断する

この3つのどれでも解決できず、それでもまとまった時間がかかっている。 そのときにはじめて、有料のRPAが候補になります。

RPAの費用対効果を導入前に見積もる3つのステップ

RPAを候補に残したら、契約する前に紙の上で採算を計算します。 やることは、減る時間を金額に直したものと、増える費用を並べるだけ。 導入後に「思ったより減らなかった」となる会社は、この計算を先にやっていません。 30分あれば終わります。

ステップ1:対象業務に月どれくらい時間を使っているか数える

先ほどの表で出した「1回あたりの時間 × 月の回数」をそのまま使い、人件費を掛けて金額に直します。 時間単価は、ざっくり「担当者の年収 ÷ 2,000時間」で構いません。 年収400万円なら1時間あたり2,000円です。

ここで大事なのが、RPAを入れても作業時間はゼロにはならないという点です。 ロボットが正しく動いたかの確認、エラーが出たときの対応、例外分の手作業は残ります。 実際に減らせるのは作業時間の6〜8割と見ておくと、見積もりを大きく外しません。

月5時間の受注データ入力業務であれば、計算は次のようになります。

  • 月5時間 × 12か月 = 年60時間
  • 年60時間 × 2,000円 = 年12万円 ← いまこの業務にかけている費用
  • 12万円 × 7割 = 年8.4万円 ← 削減が見込める金額

ステップ2:ライセンス費と作成にかかる手間を書き出す

次に、増える費用を3つ書き出します。 ライセンス費だけで判断すると、必ず見誤ります。

費用1:毎年かかるライセンス費

製品による幅が非常に大きく、デスクトップで動く簡易なものから、サーバーで無人稼働させる本格的なものまであります。 年間で数十万円規模になる製品も珍しくありません。 必ず自社の使い方を伝えて見積もりを取ってください。 何台で何人が使うのかを具体的に伝え、「1台から始めたい」と添えると、想定より安い構成を提示されることもあります。

費用2:初年度に集中する作成の手間

最初の1本は、社内で作るなら慣れていない人で10〜30時間程度を見ておきましょう。 これも時間単価を掛けて金額にします。 外注する場合は、1本あたりの制作費と、修正が必要になったときの料金を確認しておきましょう。

費用3:毎年発生する保守の手間

画面の変更やパスワードの更新でロボットが止まるたびに、直す時間が発生します。 1本あたり年間で数時間から数十時間を見込んでおくと安全です。

ステップ3:初年度と2年目以降に分けて黒字になるか計算する

書き出した数字を並べます。 ポイントは、作成の手間は初年度にしか発生しないため、初年度と2年目以降を分けて計算することです。 ここを分けずに1年で判断すると、本来やるべき案件を落とします。

削減額が年8.4万円、作成の手間が20時間で4万円、保守の手間が年10時間で2万円だとすると、次のように並びます。

項目 初年度 2年目以降
作成の手間 4.0万円 0円
保守の手間 2.0万円 2.0万円
ライセンス費 見積額 見積額
かかる費用の合計 6.0万円 + 見積額 2.0万円 + 見積額
削減できる金額 8.4万円 8.4万円
差引 -2.4万円 + 見積額 -6.4万円 + 見積額

この業務であれば、ライセンス費が年6.4万円を下回れば2年目以降は黒字、という線が引けます。 判断の目安は次のとおりです。

  • 2年目以降が黒字なら、初年度が赤字でも検討する価値がある
  • 2年目以降も赤字なら、その業務はRPAの対象ではないので代わりの手段に戻る
  • 1本では合わなくても、同じ条件の業務が社内に3つ4つあるならライセンス費を分け合えるので合うことが多い

多くの会社で、業務1つだけではライセンス費に見合いません。 2本目、3本目の候補があるかまで含めて計算することが、判断を誤らないコツです。 先ほどの表を作ったときに候補が1つしか挙がらなかったのであれば、いまはRPAを入れる時期ではありません。

中小企業がRPAでつまずく4つの落とし穴

採算が合いそうだとわかったら、あとは製品を選んで始めるだけ、と言いたいところです。 ただその前に、導入後に実際に起きる詰まりを知っておきましょう。 どれも製品の良し悪しではなく、RPAという仕組みの性質から生まれるものです。 事前に手を打てば避けられますが、起きてから対応すると手戻りが発生し、費用と時間を無駄にしてしまいます。

建設会社が管理部門からRPAを入れて年間約1,500時間の定型業務を減らした例は建設業4社のDX事例の解説記事で紹介しています。

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導入そのものが目的になってしまう失敗を避けたい方は、業務効率化とDXの違いと自社の段階の見分け方の解説記事もあわせて読んでみてください。

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落とし穴1:ロボットが動いている間はパソコンが使えない

安価なタイプのRPAは、人の操作をそのまま再現するため、動作中はそのパソコンを人が使えません。 マウスが勝手に動き、勝手に画面が切り替わる状態になります。 30分かかる処理を昼間に動かすと、その担当者は30分間、他の仕事ができません。 これでは何のために自動化したのかわからなくなります。

対策は次の3つのどれかです。

  1. 昼休みや終業後など、動かす時間をあらかじめ決めておく
  2. 専用のパソコンを1台用意する
  3. 人が見ていなくても動かせる上位のライセンスを検討する

専用のパソコンは、中古のノートパソコンで足りることが多くあります。 上位のライセンスは費用が上がるため、専用機を用意する場合とあわせて、先ほどの採算計算に入れ直しておきましょう。

落とし穴2:二段階認証やパスワード更新で処理が止まる

銀行のサイトや取引先のポータルサイトでは、二段階認証が必須になっていることがあります。 スマートフォンに届いた確認コードを入力する操作はロボットにはできないため、そこで処理は必ず止まります。

対策としては、次のように業務を分けるのが現実的です。

  • 認証が必要な部分だけ人が行い、ログイン後の作業をロボットに渡す
  • パスワードを変えたらロボットの設定も直す、と担当者の間で決めておく
  • 業務用のアカウントを特定の担当者の個人携帯だけに紐づけない

なお、認証を通すためにIDとパスワードを社内で共有する対応は避けてください。 誰がいつ操作したのかがわからなくなり、金銭が動く操作でも本人を特定できません。 退職者が出たときに、どのアカウントを止めればよいかも追えなくなります。

落とし穴3:画面の仕様変更でロボットが動かなくなる

RPAは画面上のボタンや入力欄の位置を頼りに動くため、システム側の画面が変わると止まります。 クラウドサービスは予告なく画面が変わることがあり、これはRPAの構造上避けられません。 したがって対策は、止まらないようにすることではなく、止まる前提で備えておくことになります。

次の3つを決めておきましょう。

  1. エラーが出たら担当者にメールが飛ぶよう設定し、止まったことに気づける状態にする
  2. 手作業に戻すための手順書を、ロボットとセットで残しておく
  3. 直せる人を社内に1人以上作るか、保守を頼める相手を決めておく

止まった翌日に誰も気づかず、月末になって処理漏れが発覚する。 この事故がいちばん高くつきます。

落とし穴4:作った人しかわからないロボットが増える

4つ目が最も注意すべき落とし穴です。 属人化を減らすために入れたRPAが、新しい属人化を生みます。 「毎朝なにかのロボットが動いているが、中身は前任者しか知らない」という状態は、その担当者が辞めた瞬間に業務を止めます。 手作業のときは他の人が見様見真似でできましたが、ロボットの中身は開いても読めません。

最初の1本を作る時点で、次の4つを決めておきましょう。

  1. ロボットの一覧表を作り、名前・対象業務・動く時間・作った人を書く
  2. ロボットの名前に業務名と作成年月を必ず入れる
  3. 3か月に1回、一覧表を見て使われていないロボットを止める
  4. 作った人以外が中身を1度は見る場を設ける

一覧表はExcel1枚で十分です。 ロボットが1本しかないうちに作っておくのが、いちばん手間がかかりません。 10本に増えてから作ろうとすると、まず作られません。

4つ目の「作った人以外が中身を見る」は、社内だけでは形だけになりがちです。 同じ会社の人間同士だと、作った人に遠慮して踏み込んだ指摘がしづらいためです。 業務整理室では、第三者かつ業務整理の専門家の目線でロボットの中身と運用を確認し、担当者が抜けても回る形に整えるところまでを支援しています。

RPAで業務効率化を進める4つのポイント

ここまでで、対象業務の選び方と、入れたあとに起きることは見えてきたのではないでしょうか。 最後に、実際に進めるときの4つのポイントを、着手する順番で紹介します。

ポイント1:対象業務を1つに絞って手順を書き出す

3つの条件で選んだ業務を1つだけ選び、担当者に実際の順番で手順を書き出してもらいます。 「どのシステムを開く」「どこをクリックする」「何を入力する」を、パソコンを操作しながら1行ずつ書いてもらうのがコツです。 頭の中だけで書くと、必ず抜けが出ます。

この段階で、担当者ごとにやり方が違うことや、実はもう不要な手順が見つかることがよくあります。 手順を書き出しただけで作業時間が減ることも珍しくありません。 複数の業務を同時に始めたくなりますが、1本目は必ず学習のために使いましょう。

この書き出しは、業務の担当者と経営者の2人で進めましょう。 担当者に任せきりにすると「また新しいことをやらされる」と受け取られ、手が止まります。 経営者が同席して、なぜこの業務を選んだのか、減った時間を何に使ってほしいのかを伝えるだけで、進み方は変わります。

ポイント2:無料版か試用版で小さく作って動かす

契約は、動くことを確認してからで間に合います。 多くのRPA製品には試用期間があり、Windowsに標準で入っている自動化ツールもあります。 1本目は対象業務の全部ではなく、いちばん時間がかかっている部分だけを作ってみましょう。

ここで確かめるのは、次の3点です。

  1. そもそも最後まで自動で動くか
  2. 作るのにどれくらいの時間がかかったか
  3. 動かしている間、担当者のパソコンが使えるか

1つ目は、認証や画面の作りで止まらないかという確認です。 2つ目は、作成の手間として見積もった10〜30時間と実際が合っているかの答え合わせになります。 3つ目で困るようであれば、専用パソコンの費用を採算計算に入れ直します。 ここまでを費用ゼロで確かめられるのが、小さく試すことの価値です。

ポイント3:管理する人と一覧表を決めてから本番に移す

動くことが確認できたら、毎日動かし始める前に次の4つを決めます。

  1. 誰が管理するか
  2. 一覧表をどこに置くか
  3. 止まったときに誰が手作業に戻すか
  4. 業務時間中と終業後のどちらに動かすか

管理する人は、作った人ともう1人の2名にしておきましょう。 決めずに動かし始めると、作った人しかわからないロボットが増える状態にまっすぐ進みます。 話し合いは30分で終わりますが、あとから決めようとすると誰も手を挙げません。

ポイント4:3か月後に減った時間を数えて続けるか決める

本番で動かし始めて3か月経ったら、担当者に聞いて実際に減った時間を数え、最初の見積もりと比べます。

  • 見積もりどおり減っていれば、同じ条件の業務を2本目に選ぶ
  • 半分以下しか減っていなければ、頻繁に止まっていないか確認作業が重すぎないかを調べる
  • ほとんど減っていなければ、そのロボットは止める

最後の判断をためらわないでください。 止めることは失敗ではなく、判断です。 使われないロボットを動かし続けるほうが、ライセンス費と管理の手間を払い続けることになります。 RPAは入れて終わりの道具ではなく、続けるかどうかを定期的に決めながら使う道具だと考えてみてください。

ここまでの4つは、業務の担当者と経営者の2人がいれば進められる内容です。 新しく人を雇ったり、IT担当を置いたりする必要はありません。 そしてこのコンパクトさで始めることが、疲弊せず、破綻せずに進めるための最大のポイントになります。 関わる人が増えるほど手順を決めるだけで時間が過ぎ、決めたことも守られなくなるからです。 まず2人で1本を動かし、うまくいった形をあとから広げるほうが確実に進みます。

ただ、日々の業務を回しながら手順の書き出しと採算の計算まで抱えるのは、決して軽い作業ではありません。 業務整理室では、こうした業務の整理を現場の担当者の方と一緒に行い、改善策を実行して定着させるところまでをチームの一員として支援しています。 現場の負担を最小限にすることを何より大切にしているため、無理に新しいツールを勧めることはありません。 社内の2人だけでは手が回らないと感じたときは、一度相談してみてください。

外部の力を借りる場合も、どの業務を対象にするかと、続けるかどうかを決めるところは自社で持っておきましょう。 ここを預けてしまうと、ロボットが増えても社内に判断の基準が残りません。

まとめ

RPAで効率化できるのは、パソコンの画面上で毎回同じ手順を繰り返している作業だけです。

  • 判断が必要な業務と紙が絡む業務は減らせない
  • 対象は3つの条件をすべて満たす業務から1つだけ選ぶ
  • 契約前に既存ソフトやマクロで済まないか確かめる
  • 採算は初年度と2年目以降に分けて計算する
  • 担当者と経営者の2人で小さく始める

まずはExcelのシートを1枚開いて、事務作業の「1回あたりの時間 × 月の回数」を書き出すところから始めてみてください。 ここで対象業務が1つも見つからなければ、いまはRPAを入れる時期ではない、という判断ができます。